馬の石

本郷は、形を単純化した頭像を1954年から石で数点制作しています。本郷の石の作品で最も大きいものは、《馬の石》です。この作品は、1963年7月1日から9月30日までの3カ月間、神奈川県足柄郡真鶴町の県立公園真鶴半島道無海岸で開催された日本で最初の彫刻シンポジウム「世界近代彫刻シンポジウム」(朝日新聞主催)に参加して公開制作されました。

シンポジウムには、国外から6人、国内からは本郷、木村賢太郎、水井康雄、毛利武士郎、野水信、鈴木実の6人の彫刻家が招待されました。使用された素材は、重量10トンをこえる新小松石(安山岩)です。当時最年長であった49歳の本郷は、シンポジウムのリーダーとして、炎天下の中、若い彫刻家ともに寝食をともにしながら制作に取りくみました。

彫刻とは展覧会に出品するためのものでも室内に飾られる愛玩的な存在でもなく、太陽の下で皆に鑑賞される空間芸術であるべきだと主張していた本郷にとって、シンポジウムという形態はアトリエ制作では得られない新鮮な体験でした。

参加した作家の中で唯一具象的な作品を制作した本郷は、「彫刻というものは、つくられたものが独りよがりでなく、説明がなくても見る人にわからなければならないと思っている。だからといって私は馬の写生をやったわけでもない。私は、抽象だとか具象とかいう風に区分けから出発することよりも、まず自分を制作にかりたてるリアリティというものが一番大切だとおもっている」と述べています。これまで具象を中心に制作してきた本郷が、彫刻家として今後進むべき方向を示した決意表明とも言える言葉でした。

完成した作品は、現在富田林市のパーフェクトリバティー教団の大平和記念塔「彫刻の庭」に他の参加作品と共に野外設置されています。