ライラックをかざす乙女のトルソ

《ライラックをかざす乙女》は、札幌市中央区にある北海道銀行本店落成記念として1964(昭和39)年に設置されました。

今にも台座から下りて歩み出しそうなこの作品。踏み出した左足が動的な印象を与えます。指先からつま先まで伸びやかで緊張感のあるフォルムは、理想化された女性の美を示しています。これに似たポーズはその後も度々用いられており、彫刻に動きの要素を加える本郷のお気に入りのフォルムです。

当館の本館の庭園には、頭部と腕のない胴の部分、すなわち「トルソ」が設置されています。全身像よりも、顔や腕などを省略することで、より一層人体の美しさが強調されています。

北海道銀行本店にある《ライラックをかざす乙女》は、大きく振り上げられた両腕のうち右手には、北海道の初夏を彩るライラックの花房を持たせています。銀行に訪れる人々を歓迎する朗らかな女性の姿が意図されています。

この像と同時に、道銀ビルの新築記念として、札幌二中(現札幌西高)ゆかりの作家である佐藤忠良、山内壮夫との共同制作による壁面彫刻「大地」も設置されています。

縦3.27メートル、横42メートルのレリーフである「大地」は、北海道の自然をモティーフにしています。十勝岳と原始林、豊かな牧場や田園の風景など、牧歌的な北海道らしさと未来を担う産業を組み合わせています。

これほどの大きさのレリーフを制作するのは苦労が多かったようです。構図の決定から制作までおよそ六ヶ月を要し、新制作派協会彫刻部を創設した40年来の盟友と共同制作した作品です。制作にあたっては本郷のいわばプロデューサー的な資質が発揮され、リズミカルで統一感のある作品となりました。