本郷新の版画
本郷新の彫刻作品は、太陽の下に置かれる野外彫刻を理想としていました。旺盛な制作は、74年の生涯を通し貫かれています。一方、彫刻だけではなく絵画も多数描いています。本郷自身、35歳頃までは彫刻と絵画を平行して制作していたと語っています。その後、彫刻の制作が忙しくなり、そちらに専念していくようになりましたが、折に触れて絵画を描いていました。当館には本郷の素描、油彩画、版画が多数残されています。版画は油彩画に比べると数は少ないものの、36点収蔵されています。
1968年に制作した《不死鳥》は、彫刻で使い慣れた素材である粘土に金網を貼り付けた版で刷ったものです。本郷は、《不死鳥》 を彫刻でも制作しており、開拓記念像として、同じ年に江別市役所前に設置されています。また、レリーフでも《不死鳥》を制作していることから、本郷にとってこのテーマは、さまざまの表現を試みるほどに魅力あるものだったことがわかります。
版画の魅力に惹かれた本郷は、1970年代に入り本格的に取り組みました。馬をテーマとした《月》と《風》は、彫刻では表現できない線の強弱と色によって生み出された世界で豊かな詩情にあふれています。
その後、リトグラフを手がけた本郷は、的確な線で表現する面白さを見つけます。対象を立体的に捉えた作品は、彫刻家の感性を感じさせます。本郷は版画の世界に、新たな可能性を広げたようです。
1976年後半から制作した作品から5点選び、『本郷新石版画五葉集』を1977年に限定70部を発行しています。摺りは版画工房の一径(友安一成)です。当館に収蔵されている作品は、作家保存版です。作品集には、次のような本郷の短い文章が掲載されています。
日頃、空間の中でデッサンをする彫刻という仕事から、突然紙の上にデッサンする平面の仕事に移るとちょっと勝手がちがう。紙や石という限られた面積の中の仕事なので、あるところでは腕がちゞみ勝ちになる。反対にイメージは限りなく拡大していく。何か紙に穴をあける思いで ある。何日かつづけて平面を相手にしていると、いつの間にか慣れてきて、その世界の大きさに びっくりする。あゝもやり、こうもやるが、下手をすると工芸品を作る時のような技巧の面白さとりつかれる。思いもしない効果が出てきて、それに振りまわされる。こうなると、画品も面格 消えて何かが低下する。
私はやや溺れ気味になるのをこらえながら何とか一枚の原画をまとめる。