白樺
白樺は本郷が最も愛した樹であり、宮の森のアトリエ(現本郷新記念札幌彫刻美術館)や、白樺の生育が難しい東京のアトリエにも植えていました。葉を落として立ち並ぶ白樺の樹々が抑えた色調で描かれ、雪国の冷たく清澄な空気と郷愁を感じさせます。
本郷は1980年秋に開館した札幌市教育文化会館大ホールを飾る緞帳の原画を、生前最後に手がけた公共的な仕事として描きました。そこに選ばれたモティーフも、本作と同様に白樺林でした。亡くなる20日ほど前に病床で筆をとり、幼い頃に自分が過ごした札幌のイメージを、初冬の夕暮れ時の白樺林に託して描いたと言われます。
ここに展示したスケッチでは、樹々の間にのぞく太陽が橙色に輝いていますが、緞帳では鮮やかな緑で描かれています。この描写は、本郷が若き日に師事した日本近代彫刻の代表的な作家、高村光太郎の著作「緑色の太陽」を思い起こさせます。高村光太郎はこの短くも含蓄に富んだ文章の中で、芸術家が自らの表現に忠実であることの重要性を述べています。病に伏せた本郷の脳裏に、かつての師の芸術論がよぎったことを推察させる表現です。